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大阪高等裁判所 昭和48年(ネ)978号 判決 1975年3月26日

控訴人(被告・反訴原告)

大西建設運送株式会社

被控訴人(原告・反訴被告)

岩橋末喜

主文

原判決主文第一、二項を次のとおり変更する。

控訴人は被控訴人に対し金五〇万円及びこれに対する昭和四三年三月二八日より支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

被控訴人のその余の請求を棄却する。

控訴人のその余の控訴を棄却する。

訴訟費用は第一、二審を通じ、本訴反訴ともにこれを八分し、その三を被控訴人の負担とし、その余を控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は、「原判決中控訴人勝訴の部分を除き取消す。被控訴人の請求を棄却する。被控訴人は控訴人に対し金一一七万八、九八〇円及びこれに対する昭和四三年一〇月二七日より支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は、「本件控訴を棄却する。控訴費用は控訴人の負担とする。」との判決を求めた。

当事者双方の主張、証拠の関係は、次に付加するほかは、原判決事実摘示と同一(ただし、原判決三枚目裏一〇行目の「走行裂置」を「走行装置」と、同六枚目表三行目の「その六割」を「その給付基礎日額三、八七四円の六割」と、同一〇枚目表二行目から三行目の「休車補償)」を「休車補償。」とそれぞれ改め、同一一行目の「提出し、」の後に「検甲各証はいずれも昭和四二年一〇月頃被控訴人主張の事故現場を撮影した写真であると述べ、」を、同裏終りから二行目の「認める、」の後に「検甲各証が被控訴人主張の日時にその主張の場所を撮影した写真であることは認める、」をそれぞれ加える。)であるから、これを引用する。

被控訴人の主張

一  被控訴人はいわゆる運転補助者とはいえない。すなわち、被控訴人は被控訴人主張の事故(以下本件事故という。)発生当時訴外弥代隼人の依頼によつてバイブロをシートパイルの頭にはさみ電源を入れる操作を行なつていたが、これは被控訴人がたまたまその場に居合せたところを弥代に依頼され臨時に手伝つたにすぎない。本来右作業は弥代がいつも連れてくる従業員に担当させていたものであるが、当日その従業員が来なかつたため、被控訴人が右作業をする結果となつたもので、運転補助者としての業務性は皆無である。仮に被控訴人が運転補助者に該当するとしても、本件事故はもつぱら弥代がレツカー車運転が慎重さを欠いたため発生したもので、被控訴人の行為が本件事故の発生にいささかも原因力を与えていないから、その間に因果関係は存在しない。したがつて、被控訴人は自賠法三条所定の他人に該当するというべきである。

二  被控訴人が本件事故によつて被つた損害のうち将来の逸失利益、慰藉料額は次のとおりである。

(一)  将来の逸失利益

被控訴人が本件事故で受けた傷害は昭和四三年一〇月七日に症状固定したが、その後遺症は後遺障害等級八級に該当し、労働能力喪失率は四五パーセントである。被控訴人の右症状固定時の年令は三一才であつたから、六三才まで三二年就労が可能であり、本件事故当時の収入は一か月一一万八、四〇〇円であるから、年ごとホフマン(係数一八・八)方式により中間利息を控除し逸失利益の現在額を算定すると一、二〇一万九、九六八円となる。被控訴人は右損害のうち一七四万円を労働者災害補償保険からの給付を受けたからその残額は一、〇二七万九、九六八円となる。

(二)  慰藉料

被控訴人が本件事故により受けた傷害の精神的苦痛に対し七〇万円、後遺障害の精神的苦痛に対し一〇一万、計一七一万円が相当である。

(三)  被控訴人は右各損害合計一、一九八万九、九六八円のうち一七〇万円を治療費、休業中の逸失利益のほかに請求するものである。

控訴人の主張

一  被控訴人が主張するシートパイルの引抜き作業において、訴外浜畑織夫、同臼田広一は訴外弥代隼人の指揮監督に従わねばならない地位にあり、被控訴人は本件作業の元請人である磯田組の専務取締役で、下請人である弥代を指揮監督する立場にあつたから、浜畑と臼田にとつては被控訴人、弥代は上司ともいうべき者である。かかる立場にある弥代が自らレツカー車を運転し、被控訴人がこれに協力して作業を進めた場合、浜畑、臼田にこれを制止することを期待することは無理なことというべきである。まして、右両名は弥代がレツカー車の運転免許を有し、他のレツカー車を運転したことがあることを知つていたのであるから、事故の発生を予見しえないところであつて、弥代の運転を制止しなかつたことにつき過失はないというべきである。

二  反訴請求原因二(一)及び二(五)の損害額につき、損害保険金により各一部の支払をうけているので、右支払額を控除し二(一)の金額を金五〇万九、七八〇円と、二(五)の金額を金四万七、七〇〇円と改める。右訂正に伴い従前の反訴請求に係る金額を一部減額し、これを金一一七万八、九八〇円とこれに対する従前主張の日から完済に至るまでの主張額の遅延損害金の支払を求める、と訂正する。

証拠〔略〕

理由

当裁判所は被控訴人の本訴請求を主文第二項掲記の限度で正当であり、被控訴人のその余の請求、控訴人の反訴請求は失当であり棄却すべきものと判断するが、その理由は次に付加、訂正、削除するほかは原判決理由摘示と同一であるから、これを引用する。

(一)  原判決一一枚目表三行目の「第二回」を「第一、二回」と、同四行目の「原告(反訴被告)本人尋問の結果(第一、二回)」を「原審(第一、二回)及び当審における被控訴人(反訴被告)本人尋問の結果」と、それぞれ改める。

(二)  原判決一二枚目裏九行目の「バイブロ」の前に「十分にシートパイルを狭んだ後」を、同一〇行目の「レツカー車の」の後に「運転免許を有する」を、それぞれ加える。

(三)  原判決一三枚目裏二行目の「危惧することなく、」の後に「又自分も前記請負作業中にバイブロユニツトの操作を習い覚えていたので」を加える。

(四)  原判決一六枚目裏五行目の「証言」の後に「(第二回)」を加える。

(五)  原判決一八枚目表五行目の「原告本人尋問の結果」を「原審における被控訴人本人尋問の結果(第二回)」と改め、同六行目の「原告本人尋問」の前に「同」を加え、同末行の「受けたこと、」を「受けた。そして」、と、同行の「吹田病院」から同裏六行目の「である。」までを「吹田病院の治療費金五、七六六円、内藤病院の治療費金三四万五、七二六円、計三五万一、四九二円を要した。」と、それぞれ改める。

(六)  原判決一八枚目裏八行目の「原告本人尋問」の前に「原審における」を加え、同九行目の「原告本人尋問」の前に「同」を加え、同一九枚目表一行目の「(甲第三号証」から同六行目の「認定する。)」までを削除し、同七行目の「事故当日」を「事故当日の翌日(事故当日は給与の支給額が不明であるので除く)」と、同一一行目の「となるところ、」を「となる。」と、それぞれ改め、同行の「その六割」から同裏一行目の「となる」までを削除する。

(七)  原判決一九枚目裏二行目の「原告」から同一一行目の「と解される。」までを削除し、同一二行目の「原告本人尋問の結果(第二回)」を「原審(第二回)及び当審における被控訴人本人尋問の結果」と、同二〇枚目表二行目と三行目の各「腱側に」を「健側の」と、同一一行目の「原告本人尋問の結果(第二回)」を「前記被控訴人本人尋問の結果」と、それぞれ改め、同裏一〇行目の「相当である。」の後に「もつとも、将来経済界の変動に伴う社業の消長により被控訴人が転職、失職し、右後遺障害のため収入の減少をきたすおそれが全くないとはいえないが、現在かかる事態の生ずることを予測せしめる資料はなく、したがつて右事情は慰藉料の額を算定する事情として斟酌するほかはない。」を加える。

(八)  原判決二〇枚目裏一〇行目の「しかし」から同二一枚目表二行目の「相当と認める。」までを次のとおり改める。

「(四) 被控訴人が本件事故による前記認定の受傷により多大の精神的苦痛を被つたことは容易に推認できるところ、前記認定の被控訴人の年令、職業、傷害の程度、後遺障害の程度及び前記(三)認定のとおり被控訴人に労働能力喪失による将来の逸失利益が認められないとしても、将来転職、失職、昇給の延伸等による収入の減少が全くないとはいえないこと、後記認定の財産的損害額認定について斟酌すべき事情並びに被控訴人が自認する障害補償費金一七四万円の労災保険給付を受けたこと等を総合して斟酌すると、被控訴人の慰藉料は金五〇万円とするのが相当である。なお労災保険給付は被害者の財産的損害に対して支給されるものであつて、右給付額が財産的損害額を超えるものであつても、その部分が被害者の精神的損害に充当されるべきものではない(最判昭和三七年四月二六日民集一六巻四号九七五号)。

(九)  原判決二一枚目表九行目の「損害額」の前に「財産的」を加え、同一一行目の「原告」から同裏二行目の「となる。」までを次のとおり改める。

「被控訴人の財産的損害は前記五(一)認定の治療費金三五万一、四九二円、同(二)認定の休業損害金九六万一、三五四円計金一三一万二、八四六円の五割金六五万六、四二三円となるところ、被控訴人は療養補償費金二二万一、七九二円(金五、七六六円と金二一万六、〇二六円の合計)と休業期間二四九日分について給与基礎日額三、八七四円の六割相当の休業補償費金五七万八、七七五円、計八〇万〇、五六七円の労災保険給付を受けたことを自認するから、被控訴人の右財産的損害は右労災保険給付により全額填補されたというべきである。したがつて、被控訴人の控訴人に対し請求しうべき金額は前記認定の慰藉料金五〇万円及びこれに対する本件訴状送達の日の翌日であること記録上明らかな昭和四三年三月二八日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金であるといわなければならない。」

(一〇)  原判決二三枚目表七行目から八行目の「金一〇〇万七、一二〇円」を「金五〇万円」と改める。

(一一)  被控訴人は、被控訴人のバイブロユニツトの操作は弥代に依頼され臨時に手伝つたにすぎず、運転補助者としての業務性に欠けるから運転補助者ではなく、又被控訴人の行為と本件事故との間に因果関係がないから自賠法三条所定の他人に該当する旨主張する。しかし、他人の範囲から除外される運転者又は運転補助者というために、その者が職務上の業務として運転又は運転の補助に従事していることを要するものでないばかりでなく、前記付加、訂正して引用に係る原判決認定事実によると、被控訴人は本件事故現場での土砂崩れ復旧工事を請負つた株式会社磯田組の専務取締役として、右工事並びに右工事中のシートパイル抜取作業の現場責任者として右作業の指揮監督権があり、右作業中にバイブロユニツトの操作を習い覚えていたものであつて、〔証拠略〕によると被控訴人もほとんど毎日右復旧工事作業に従事していたことが認められるから、本来バイブロユニツトの操作を担当する作業員がいたとしても、なお被控訴人がバイブロユニツトを操作することは被控訴人の業務の範囲内のものというべきである。又右運転者、運転補助者として自賠法三条所定の他人から除外されることについて、運転又はその補助と事故発生との間に因果関係を要するものではなく、現に運転又はその補助に従事していれば足りると解すべきである。

(一二)  控訴人は、浜畑、臼田に弥代のレツカー車運転を制止することを期待することは不可能である旨主張するので検討するに、被控訴人が本件事故現場における土砂崩れ復旧工事作業の現場責任者であり、弥代がシートパイル抜取作業の下請人であること前記引用に係る原判決認定のとおりであり、したがつて浜畑、臼田は被控訴人、弥代らの指揮監督を受ける立場にあつたといえるが、浜畑、臼田は被控訴人、弥代の直属の部下ではなく、レツカー車の貸主である控訴人会社の従業員でレツカー車のオペレーターとして控訴人の命令によつて本件工事現場に派遣されたものであり、しかも弥代はもと同僚であつたことも右原判決認定のとおりであつて、かかる立場にある浜畑、臼田が弥代のレツカー車運転を制止することが期待できなかつたとすることはにわかに首肯し難く、他に控訴人の右主張を肯認せしめるに足りる証拠はない。控訴人の右主張を採用しない。

よつて、被控訴人の本訴請求を右説示の限度において正当と認容し、これと一部結論を異にする原判決を変更することとし、訴訟費用の負担につき民訴法九六条、八九条、九二条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 中島孝信 阪井昱朗 宮地英雄)

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